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前書き
戦争の語り部。
私が小学校の修学旅行で広島を訪問した時、原爆の被害にあった人のお話を伺う機会がありました。
その人は「戦争の語り部」として学校から紹介され、自身の体験を話していました。
今では、そもそも戦争を体験した人が高齢化し、こうした語り部も少なくなっていると聞きます。私の周りでも「話を直接聞くのではなく、話している映像を見ただけ」という知り合いも多くいます。
正直に言ってしまうと、その時の話の内容を思い出せません。なんせ何十年も前の話ですし、そもそも小6のガキンチョが年寄りの話をまともに聞くはずがありません。原爆資料館の展示が怖かったなーくらいしか思い出せる引き出しはありません。
戦争は、それくらい遠くの話だと思っていました。
それは違うぞと、往復ビンタをしてくれる映画に出会えました。
prelusion
『シビル・ウォー』の監督最新作です。
この映画を観る時になって初めて知ったのですが、監督も従軍されていたのですね。
あちらは架空の米国内戦をテーマにしていました。あちらもあちらでなかなかにリアルに寄せてはおりましたが、それでも架空のテーマを軸にしているので、なんとなくフィクションの感じは抜けきらなかったように思います。A24っぽい変な感じもありましたしね。
こっちは違うぞ。
戦争映画といえばド派手な銃火器や、兵士や家族、恋人などのアツい人間ドラマが挟み込まれがちです。場合によっては戦争という設定がかなり遠くに追いやられている戦争映画もあったりなかったりしますね。
こっちは違うぞ。
こっちは、本作は、2006年のイラク戦争に実際に赴いた陸軍特殊部隊員の記憶のみを頼りに作った、極限までリアルな戦争映画です。前半は流石特殊部隊だけあって規律の取れた動きを見せてくれます。スコープ越しに敵を見定める。その間は匍匐姿勢のままピクリとも動かない。他の隊員も待機状態ではありますが、冗談を交えながらも他部隊との情報連携は怠らない。おそらくですが、教科書通りの動きなのでしょうね。部隊の恐ろしさはこういった統率された規律にあると思います。
当然ですが、物語はこのままでは終わりません。
突然放り込まれる手榴弾
スコープするために壁に開けていた穴から放り込まれた手榴弾で、物語は一気に加速します。
ここから先の具体的な流れはネタバレになるので割愛しますが、本作は「潜入から撤退を描いたワンシチュエーションもの」です。
この映画に主人公はいません。
この映画に人間ドラマはありません。
ただ、アメリカ軍とイラク軍、そして、住宅を占拠された無辜の住民がいるだけです。
だから、この映画は面白くありません。
一般的な「戦争映画」というカテゴリで語られる面白さも、おそらくありません。映画的面白さは皆無といっても差し支えないと思います。だって、ないんですもん。人間ドラマとか、映画らしいド派手な演出が。
現実を突き詰めても、面白くないんです。
しかし、私はこの映画を観て良かったと思います。
極限までに寄せたリアル
差し込まれる劇伴はほとんどありません。そのかわり、不規則に壁を打ち付ける銃声と、すぐ隣でうめき声をあげる仲間の無惨な姿がほぼずっと映し出されます。
「戦場では死者よりも負傷者を出した方が戦力を削ぐことができる」という話を聞きます。
たしかに理屈では理解できます。死者は手の施しようがないのですぐに切り捨てられますが、負傷者は違います。程度の差こそあれ、助かる可能性があるうちは見捨てることなんてできません。そのために様々なリソースを割く必要が出てきます。
言葉でそう聞いても、今ひとつ腑に落ちないというか、本当にそうなのかな、という感覚が私の中にありました。
本作を観て理解しました。完全に理解できました。ありゃ戦力削げるし、戦意も削げるわ。言葉ではなく魂で理解しました。
助けて……
この映画を観ながらそんなことを考えつつ、私はずっと手に汗握っていました。
あまりにもリアリティに溢れすぎていて、まるで自分がその場にいるかのような錯覚を覚えていたのです。
中盤以降はずっと「早く来てくれ……」「助けてくれ……」「途中で撃たれないでくれ……」ばかり考えていました。 それくらい臨場感に溢れた映画です。
最後に
この映画は面白くありません。
だからこそ、映画館で観てほしいです。
配信を待たず、この体験を一人でも多くの人に味わってほしいです。
この映画は最後に映画のモデルとなった人と、その人を演じた役者さんの写真が並べて公開されます。
モデルとなった人の中には、モザイクがかかっている人もいます。
最後に、実際に拠点とされた家に住んでいたイラク人家族の写真も映されます。
この映画は2006年のイラク戦争をモデルにしています。
イラク戦争でなくとも、戦争は今もどこかで続いています。
日本の終戦は1945年です。
エンドロールを最後まで観て、さまざまな思いを噛み締めてください。